2009年12月5日土曜日

ウソ小説Ⅱ

まさかの続き。
こういう一次創作っぽいのだと自分の書きたいところに持っていくのに時間が掛かるぜ。

※このおはなしは実在の人物・組織と一切関係ございません。 
 ネーミングパクってるだけで本当に関係ないので切り離してお楽しみください。

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――かつて、一つの悲劇が起こった。
その悲劇の名は"巨大隕石の落下"。
大海のほぼ中心に落ちたそれは人類に未曾有の危機をもたらした。

まず、大津波が世界を襲った。
各国の海岸線は全滅。南国の島国はそのほとんどが水の魔物に飲み込まれ、多くの命が藻屑と消えた。
その後、プレートに走ったイレギュラーな衝撃により、大規模な地殻変動が発生する。
広範囲の大地震、巨大な地面隆起・陥没……更には地軸が傾いたせいで、異常気象も頻発するようになる。
その結果、逆に海岸線は大きく後退し、砂漠が世界を埋め尽くしていった。
それにともない発生する食糧危機、犯罪の横行、そして極め付けに原因不明の疫病。
それらは生きるだけで精一杯だった人類を瞬く間に蹂躙した。
そして、数ヵ月後……あれだけ地球を埋め尽くしていた人口はすでに1/10程度になっていた。

生き残ったものも飢餓と病魔に苦しみ、うめき声が世界に響いていた。
地獄と表現することすら生ぬるいその光景に誰もが人類の、いや、地球の死滅を想像した。

……だが、異常はそれだけでは終わらなかった。
まず最初に起こったのは未知の生物の大量繁殖である。
急速な巨大化、先祖がえり、鳥の羽を持ったライオンなどキメラが世界各地で発見された。
しかもそれは突然変異などではないことが判明する。
種、そのものが僅か数年で塗り換わるような"変化"を遂げたのだ。

そしてそれは人間も例外ではなかった。
疫病に冒されたものの中で生き残ったものの体に変化が生まれ始めたのだ。
それは、進化でもなく"異常化"とでも言った方がいいかもしれない。
人は、最早人"ヒト"と呼べる存在ではなくなっていた。

外見はホモ・サピエンスに類似しているが比べ物にならない高い身体能力を持つ≪強化者(ブースター)≫。
別系統樹の動物の特性を兼ね備え、獣の耳を持つ≪獣人(ゾア)≫。
鳥の羽を持ち、大空に住まう≪鳥人(ジェット)≫、強固な鱗と瞳を持った≪竜人(ドラグナ)≫。
植物と一体化し、普通の人類よりも遥か長いときを生きる≪森林人(エルブン)≫。
鉱物と一体化し、常人よりも巨大な体躯を持つ≪鉱物人(ドワーフ)≫
機械と一体化し、己を改造し続けることによって自己進化を続ける≪機械人(マシンナー)≫
……そんな多種多様な系統へと分岐したのだ。

更に彼らは物理法則を無視する力を手に入れた。
火を出すもの、物質を透過するもの、予知するもの……etcetc。
のちに≪イストリア≫と呼ばれる超能力じみたそれは、世界に変革をもたらした。

こうなってしまってはもはや人種は意味を成さず、かつての国家は破壊され、新たな秩序が産声を上げる。
世界の変革による混乱と破壊、そして再生が幾度となく繰り返され、人は次第に滅びの記憶を忘れていった。
そして数百年の時が経ち、……世界の多くが砂に覆われても、人は逞しく生きていた。
そして人は呼ぶ。悪魔によって作り変えられたこの世界を。土埃舞う大地――≪カーキ・テラ≫、と。



***


人がいる限り、宗教というものは無くならないのだろう。
特に不安が多い時代ならば。
何時のころからか多くの人の手に聖書(ガルゲ)が渡った。
彼らはそれぞれの神を信仰し、日々の生きる糧へとして行った。
だが行き過ぎた愛は憎しみになる。
己の信じる神が正当だと主張し、いがみ合いが各地で起こり、時に凄惨な殺し合いにまで発展した。
そして各宗教間の緊張は高まり、宗教戦争が起こる寸前まで高まった。

だがある時、一人の男によって一つの提案がなされる。

「――というか、みんなで、分け合えばよくね?」

その男の発言によって、血なまぐさい宗教世界は一変した。

『○○様は俺の神様』『どうぞどうぞ』『じゃあ俺は××様もらっていきますね』『ババァ、信仰させてくれ!』『俺のガルゲに男はいらん。百合だ! 百合だ!』『1300000歳以上は年増だろJK』『そんなサーカス説法に俺が釣られクマー!』

……上記のような感じで、人々は己の信じる神々を選び取り、住み分けたのだ。
その提案をした男はそういう多神教としての形をとることで、一つの宗教に纏め上げた。
それがジアル教であり、宗教国家・ジアル神聖国である。

ジアル神聖帝国は法王と、法王を含む6人の聖騎士によって代々治世されている。
そして数えて17代目の法王……彼女の名はシスター・アヴァロンという。
この王国の原点となった泉の名を与えられた聖女である。

なお長い歴史を持つジアル神聖国だが女性が法王となったのは今回が初めてである。
さもあらん。多くは女神を信仰している。その祭祀は女神を好む男性が圧倒的に多い。
(最近は男性神の信仰も盛んだが、それでもやはり圧倒的に女神が多い)
だが、彼女はその脳内に常人ならば即座に発狂する聖書(ガルゲ)、そして封印された禁書(ウェロゲ)を脳内に保管している。
その数、就任時点でざっと10万冊。そしてそれは現在も増加し続けている。
そこからついた二つ名が、"十万三千冊の聖書(マスター・オブ・ガルゲ)"。
彼女はジアル神聖国の中央に存在する大聖堂にて日々、神に祈りをささげ、その祝福を市民に分け与えている。

その大聖堂の謁見室で、彼女に対し、ヴェール越しにかしづく存在があった。
清楚な白い服に黒髪が映える美女……6聖騎士の一人、"獣の騎士"ウル=カニャンだ。
白い修道服から見える僅かな肌には包帯が巻かれ、いまだ消えぬ傷が生々しく残っている。

「――申し訳ありませんシスター・アヴァロン。 ザ・キャンサーを取り逃しました」

ウルは頭をたれ、己の不明を恥じる。
脱走者、最強のエージェント、"獅子の瞳(レグルス)"ザ・キャンサー。
大怪我を負わせたとはいえ、最終的に逃してしまった。

あの深手で砂漠の外界に出れば命はないと思うが……判断は出来ない。
その程度で死ぬようならば、彼女は"最強"の称号を手に入れてなかっただろうから。

「親愛なるシスターよ。いかなる罰も覚悟しております。 どうか、裁きをくださいませ……」

戦友の命を奪うのなら、せめて親友たる己の手で。
そう思い自ら名乗りを上げたのにこの体たらく……。
シスター・アヴァロンから声が掛からない時間は、針の筵に座らされている気分だ。
だが、そんな彼女にかけられた声は男のものだった。

「取り逃した……? "見逃した"、の間違いじゃないのかい?」

そう言ってウルの背後の闇から姿を現すのは一人の青年だ。
いわゆるモンゴロイド系の顔つきを囲む緑色の髪をかきわけるのは細長い耳。
典型的な樹木人(エルブン)の青年の姿であった。

「……どういう意味さ、ブラザー・ロン」

"孤高の騎士(ナイト・オブ・アルフィネス)" 、李 龍(リ=ロン)。
ジアル6人の聖騎士の最古参の一人であり、建国のときからいるという噂もあるが不明である。
何故不明か。それは、とにかく読めないのだ、この男は。
にこやかな笑みを浮かべたその顔は、何故か安心よりもこちらの不安を煽る。

「いやぁ……シスター・ウルはキャンサー君と仲が良かったからね。 もしかして、と思ってね」
「それ以上は我が忠誠に対する侮辱とみなすぞ、ブラザー・ロン!」

逃したことについてはいかなる罰も受けよう。
だが、この忠誠心を疑われるのだけは我慢がならない。
牙を剥き、耳を尖らせ、『フカーッ!』とウルはプライドを傷つけられた怒りをあらわにする。

「おお、怖い怖い。 そういえばここ3年は手合わせもしてなかったね。一つ、対戦してみるかい?」

対するロンも笑みを深め、剣の柄に手をかける。
2人の間に剣呑な空気が漂い、一触即発の状況を作り出す。

「――そこまで、だ」

それを止めたのは低く、落ち着いた声だった。

「ブラザー・サイドライク……」

声に応えるよう、闇から姿を現したのは3メートルを越す巨漢の姿。
その全身は漆黒の鎧に包まれており、誰もその姿を知らない。
"重装騎士"サイドライク。
6人の聖騎士の一人であり、無双の剛力を持つ男。
曲者ぞろいのジアルの中でも稀有な人格者だ。
諭すような深みのある声が、謁見の間に深く響く。

「……すべては、シスター・アヴァロンの采配次第、だ」

そう、この場における最終的な決断は六聖騎士の一人であり、主でもある彼女に委ねられている。
ウルは再びシスターのいるヴェールに向き直り、下される判断を待つ。
だが――何時までたってもお声が掛からない。

「お姉さま?」

公の場では正式名称を使うように心がけているのだが、つい愛称が出てしまった。
だがその言葉をとがめる声もない。
それどころかヴェール越しのシルエットがピクリとも動かない。

「申し訳ない――失礼する」

不審に思ったロンがヴェールを押し開く。
その向こうにあったのは――偶像崇拝に使われるウレタン製抱き枕。
そして、それにつけられた張り紙には。

『おなか減った。ごはんおきものー 
 P.S. これいらないから誰かあげるね』

痛々しい沈黙が場を支配する。そして、

「「「お姉さまぁあああああああああああ!!?」」」

3人分の絶叫が大聖堂に響き渡った。

****

そのころ、城下町。

「もきゅもきゅ」

皿の上からクッキークルーラーが消失。

「もきゅもきゅもきゅもきゅ」

オールドファッションとフレンチクルーラーが続けて消失。

「もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ」

ストロベリーミルクリングとエンゼルクリーム、シュガーレイズドとチョコレート、ゴールデンチョコレートとベイクドシューのカスタードが一気に消失。

小さな店の軒先のカフェテリアにて、珍妙な咀嚼音をたてながら、一心不乱に名物である揚げ菓子を食べている少女がいる。
背はそこらの子供より小さく、見かけは幼い子供にしか見えない。
だが彼女こそ六聖騎士にしてジアル神聖国を治める女法王シスター・アヴァロンその人である。
彼女は時折城を抜け出して、城下町を廻る。
だが今まで誰にも気づかれるはことはない。
それも当然か。世間の持つシスター・アヴァロンのイメージはカリスマと慈愛溢れる深層の聖女である。
まさかこんなところで揚げ菓子をほおばってる幼女――実際の年齢はそれなりなのだが――だとは思うまい。
皿に山積みされた揚げ菓子を平らげたアヴァロンは、思索に移る。

「うーん、おいしぃ。 毎日のお祈りに加えて、揚げ菓子を食べることを義務化しようか……」
「やめてください。国民を糖尿病にする気ですか、シスター」

突如として少女の背後に現れたのは影法師。
群青色のローブを深く纏い、その表情は読めない。
かろうじて判るのは発せられる声が男のものだということだけ。
その姿はあからさまに異貌。だが周囲の人間は奇異の目を向けることなく、通り過ぎていく。
まるで彼が見えていないかのようだ。

「げげっ、もう見つかった?」
「"げげっ"じゃ、ありません。 何を抜け出して、大量に揚げ菓子を食べているのですか。
 呼び出されたのに置いてけぼりなウルとか涙目ですよ?」

彼の名は六騎士の一人、"群青を統べるもの"ブラザー・ラピス。
隠密と移動手段のプロフェッショナルであり、ジアル国一の軍師である。
彼女の師匠の一人でもあるため、ある程度行動パターンは読めるのだ。

「それで、ウルの処分のほうはいかがいたしましょう」
「ああ、それね。もちろん、お咎め無しで」
「お咎めなし、ですか?」
「うん、だってあの"ザ・キャンサー"を知る奴なら簡単に倒せるとは思わないし、
 ウルにゃんは真面目だから手心を加えるような真似はしなかっただろうしね。
 ウルにゃんにはこれからガシガシ働いてもらうことで頑張ってもらいましょう。
 それに……キャンちゃんが出奔したのは"計画"の範囲内……でしょ?」

そういって笑う彼女の顔は無邪気。
だが、だからこそ恐ろしい。
こう見えて決断を下すときはさらりと断ち切る非常さも持ち合わせているのだ。

「――ええ。そこまで考えているのなら問題はないでしょう」
「んじゃ、涙目のウルにゃんを見るためにもそろそろ城に戻って――」

その刹那、目と鼻の先の公園が爆発した。
人々は一瞬あっけに取られ……そして一瞬の後、我先にと逃げ出していった。
だがその行く先で二つ三つと次々と爆発が起こる。
逃げ道をふさがれた群集はパニックを起こし、そこかしこで叫び声が上がる。
だがその騒乱の中でアヴァロンはじっと、逃げ惑う群集を見ている。

「ブラザー・ラピス。各所に伝令、市民の非難と警戒態勢を」
「御意。シスター・アヴァロンはどうしますか?」
「決まってる――私は……」

ディープブルーの目の色に本来持ち得ない朱色が混じる。
それこそ、彼女の≪イストリア≫発動の証。

「囮になる!」

そう言うや否や、人のいない方向へと駆け出す。
己を加速させるイストリア≪これより先怪人領域-another-≫を発動させ、郊外の空き地へ駆け抜ける。
予想通り、背後から負ってくる気配あり。数は――1つ。

(数がいないのか、よっぽど自信があるのか……。おそらくは、――後者!)

空き地中央でイストリアを連続発動させる。

「さぁ、出てきなさい!」

そのまま右手に発生した誘導式破壊光線≪光の先には?≫にて気配の先を穿つ。
打ち抜かれた石壁から飛び出してきたのは黒ずくめの少年だった。
どこにでもいそうな……逆に言えばそれだけ集団にまぎれられれば見つけられないだろう。
なるほど、工作員としては最適な人物だ。
アヴァロンの視線に晒された少年は感情を乗せない表情で口を開く。

「――てっきり護衛を呼ぶかと思ったでヨミン」

だがその能面のような顔から出てきたのは、変な語尾だった。
趣味か? と一瞬考えるが、該当項目が引っかかる。

「……"伽羅縛"、自己に制約を課すことでイストリアの効力をアップする術式か」
「ほう、さすがヨミン。脳内の十万三千冊は伊達じゃないでヨミンか」
「残念。この間十万四千冊を記録いたしました。
 ……さて、誰からの依頼かな……って訊いても答えちゃくれないんだろうねぇ」
「そのとおりだヨミン。トップであるアンタを潰したいって輩はそこかしこにいるでヨミン」

だが少年はそこで首をかしげる。

「でも、解せぬでヨミン。何でわざわざ一人で逃げるでヨミンか?」
「それは簡単。 何故ブラザー・ラピスが私の独断専行を許したか。
 それは私が――負けないからだよ」

連続予約(ヘヴィスペル)。
六騎士最後の一人、"魔王(シャイターン)"パー・ヤーパから伝授された秘奥義。
連続してヒストリアを発動できるそれは発動の遅いのヒストリア使いにとっては、すさまじい脅威となりえる。

「あと、こっちもしつもんー。 なんで、あのタイミングで爆発させたの?」

爆発に巻き込まれた輩は誰もいない。
それどころかパニックに陥るかに見えて、分散させられていた。
あの調子なら最低限の被害ですんだだろう。

「簡単なことでヨミン。俺の標的はアンタ一人でヨミン。
 無関係な人間を巻き込むのは俺の美学に反するヨミン」

その答えが意外なものだったのだろう。
一瞬あっけに取られた表情になる、が、次の瞬間、一転して無邪気な笑顔を襲撃者に向ける。

「あははははははははは! よし、気に入った! 気に入ったよキミ!
 屈服させて、私の仲間にしてあげる!」
「……俺を舐めてるでヨミンか? 殺すでなく、屈服させるとは……」
「出来ないと思うの? この私に! 法王・シスター・アヴァロンに!」

自信満々に言い切るその姿。
その姿を見ると襲撃者本人でさえ、出来ないことが無いように思えてくる。

「私は"十万四千冊の聖書"シスターアヴァロン……キミは?」

答える義務はない。
だが答えなければならないような気がした。

「汚れ仕事の雇われテロリストに名前はないでヨミンが、――」

黒からディープブルーに瞳が染まる。それは彼のイストリア発動の証。
彼のイストリア、≪灯火よ、迷えるものを導け ≫によって右手に爆弾を出現させながら、少年は仮の名を名乗る。

「――あの世、"黄泉"、と人は呼ぶでヨミン」


――

多分続かない。