2018年4月22日日曜日

嘘予告 その2

昨日の続き

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#1 花田煌という少女

かつて日本を襲った未確認生命体という未知の脅威。
それはこの国にいくつもの消えない傷痕を残した。
直接的な人的被害もさることながら、PTSDに悩まされる人々――特に思春期の少年少女にはその傾向が強かった――を生み出した。
そのせいで無視できない数の不登校や休校が発生。学業の滞りが全国的に発生した。

そんな中、ひとつの計画が立案される。
PTSDに悩まされる者たちを集めた全寮制のマンモス校の設立である
『臭いものには蓋ではないのか』という批判も少なからずあったが、スマートブレイン社、鴻上コーポレーション、龍門渕財閥といった名だたる大企業が出資し、それは実現した。1000人をゆうに超える生徒数を抱える巨大校、スマートブレイン学園の設立である。

その高等部の廊下を走る一人の少女がいる。
二つに結んだ髪はくせっ毛のせいで内側に回りこみ、まるでクワガタムシのようだ。
その少女の名は花田煌という。
煌は廊下を全速力で爆走しながら、器用にポケットからスマートフォンを取り出す。

『あ、やっと出た。煌、今日は部活どうすると?』
「あ、部長! その……申し訳ないのですが今日も部活を休ませていただきたく……」

ここスマートブレイン学園にはいくつもの麻雀部がある。だが対外的には一つの学校であるため、大会に出場できるのは一枠だけとなる。そのため熾烈な校内戦が繰り広げられているのだ。
大好きな第三麻雀部に参加できないのは心苦しい。だが、これは自分がやらなければならないことなのだ。

『……仕方なかね。あんたがやりたいことなんじゃろうし』

この学園にいるのは大なり小なりあの事件で何かを失った者達だ。
他人の事情にあまり踏み込まない……望む望まざるに関わらずそういうクセがついてしまっている。
この花田煌という少女も、部長である白水哩という少女も。

「では行ってきますねっ! あの二人にも伝えておいてくださいねっ!」
『わかった! 気ぃつけえよ!』

再び廊下を駆け出し、一路更衣室へ。
その勢いのままロッカーを勢いよく開け、慣れた手つきで漆黒のプロテクターを取り出し装着する。漆黒のヘルメットまで被ると、まるで蟻を擬人化したかのようなフォルムだ。
――その姿を人はゼクトルーパーと呼ぶ。

花田煌にはもうひとつの顔がある。
治安維持組織ZECT。その一般隊員であるゼクトルーパー隊の一員だ。
煌はかつて未確認生命体に大事な後輩を殺されている。
ソレを知ったのはすべてが終わった後、このスマートブレイン学園で、別の後輩に再会した時だった。
唯の女子高生だった自分にできることなんて殆ど無いのは知っている。だけど自分の行動で一人でも多く助けられるのなら、こんなすばらなことはない。
すでに整列しているゼクトルーパー隊の端っこにやや遅れて合流する。

(遅いよ花田!)
(いやー、申し訳ありません。HRが長引いてしまいまして……)

同僚の岡橋初瀬と小声で会話しながら背筋をぴっちりと伸ばす。
これでごまかしきれるかは五分五分だと思っていた。
が、列をなぞるように歩いてきた小柄な人影が、真正面でぴたりと止まる。

「ふん、花田。そんな調子では困るのだがな……
 《完全調和(パーフェクトハーモニー)》はにわかには務まらんよ」

そう言いながらプレッシャーをかけてくるのはこのゼクトルーパー隊の隊長、小走やえ。
だが彼女は煌たちと違って黒いプロテクターを装着してはいない。
その代わり左手首に装着された腕時計のような何かがある。
それこそが彼女がこのゼクトルーパー隊の隊長であり、"仮面ライダー"である証、ザビーゼクターである。

――仮面(マスクド)ライダー。
かつて未確認生命体に立ち向かったと言われる都市伝説だ。
その名を関するZECT製強化スーツ、マスクドライダーシステム。
それをサポートするのがゼクトルーパーたる自分の役目だ。

「さて、今日も張り切ってまいりましょうかぁー!」
「和を乱すな花田ァ!」
「すばらっ!?」

 *   *   *


Tips:ZECT(ゼクト)
元々は未確認生命体の残党を想定し組織された民間警備組織。
"マスクドライダーシステム"および"クロックアップ"と呼ばれる独自技術を持ち、未確認生命体タイプW……ワームに対抗できる唯一の組織であるとされる。
人員のほとんどは大人で構成されているが、現在まで発覚しているゼクター資格者がすべて年若い少女であることから、特例として参加が認められている。(そのためほとんどは前線に出ることはない。ゼクター資格者は別だが)
対未確認生命体組織としては最大級の資金力、人員数を誇るがそれ故に小回りが利かないことも多い。
また現在はケタロス資格者率いる保守派とヘラクス資格者率いる急進派の対立が目立ってきている。



嘘予告  その1

※これは昔パニキの書いていた咲と仮面ライダーのクロスオーバースレの三次創作嘘予告です。
※パニキが書いてたオーズ/W/電王ルートを俺がやるとこうなるって感じの代物です。
※なんか中途半端にあったのでどうせだからと追記したら30kb前後になったのでちょびちょび投下するよ。


原作:【咲安価】 京太郎「……変、身ッ!」

偽典:ウィザード/キバ/カブトルート





Episode0 絶望



――そこにはもう、何もなかった。


未確認生命体第0号。
究極の闇、ン・ダグバ・ゼバ。
最強最悪の怪物が起こした空前絶後の大虐殺により、その町に住む人々の人生は突如終わりを告げた。
凄まじい範囲で巻き起こった自然発火現象(パイロキネシス)。その力で建物は焼け落ち、街路樹は燃え、目につく全てのものが炎に包まれていた。だがその惨状に悲鳴を上げる者は最早いない。あるのは人の形をした、黒い塊だけだ。

そんなの中心に、彼らはいた。

血まみれで倒れる白い怪物と、そこから少し離れた所に座り込む金髪の少年。
そしてその少年に抱えられた、血まみれの小柄な少女。

「咲、しっかりしてくれよ咲!」
「京……ちゃん……」

――少女と少年は、幼なじみだった
とは言ってもそんな大層なものではなく、クラスが同じでよく会話した……その程度の仲だった。偶然同じ高校に進んで、ふとしたきっかけから同じ麻雀部に入り、それなりに青春を謳歌していた。

それが一変したのは、ある一つの事件だ。
未確認生命体と呼ばれる怪人によるゲームじみた人間の虐殺。まるで子供向けのTV番組のような出来事。だが事実として、それは現実に起こり、そして――彼らの大事な人を奪った。

そして同時に少女は偶然力を手に入れた。
クウガ。古代にグロンギと戦った戦士の力。
そしてそこから彼女の……いや、彼女と彼の戦いは始まった。グロンギに対抗する力を手に入れた少女と、遊びのように人間を狩るグロンギたちとの戦いが始まったのだ。

そんな少女を少年は必死にサポートをした。仲間の仇を討てるように。力のない誰かを守れるように。そして何よりも少女が死なないように。自分自身に力がないと知っても自分の出来る範囲で何とかしようと抗った。
そんな少年を少女は頼りにし、少年は最後の瞬間まで付きあわせてくれるものだと思っていた。

だが、最後の戦いに少年は連れて行ってもらえなかった。
少女は誰にも言わず、最終決戦の地となる場所へと向かったのだ。
そして少年が追いついた時には全てが終わっていた。

「咲……咲、しっかりしろ咲!」

抱き起こした少女の体を見て、少年は目を見開く。
腹部のアークルに入った大きな亀裂。クウガの、そして少女の命の源である霊石――アマダムが砕けていたのだ。

それでも少年は一縷の望みを賭けて、少女に語りかける。
アマダムは幾度と無く奇跡を起こしてきた。砕けていたとしてもたった一人の命なら助けられるはずだ。

「何やってんだよ……平和になったらさ、あいつの墓前に報告してさ……それからしばらくゆっくりしようぜ? そうだ、どっかさ、どこでもいいや。祝勝会あげようぜ。それで……それで……」

少年の声が尻すぼみに消えていく。少女の体から流れ出る血が止まらない。自分の両手に抱えられた小さな体が軽く、冷たくなっていく。
――ああ、少女の命が消えていく。

「……だから……だから……死なないでくれよぉ……」

顔をぐしゃぐしゃに歪めて少年は少女を抱きしめる。
涙の粒が自身の顔に落ちてくる感触を感じながら、少女はただ笑った。

(バカだなぁ、私……)

……本当はついてきて欲しかった。最後の最後までそばで支えて欲しかった。

でもダメだった。
究極の闇に対抗するには"凄まじき力の戦士"と呼ばれる究極の破壊の力が必要だった。
その力を手に入れるためには、本当の化け物になる必要があったから。そんな姿を少年にだけは見せたくはなかったから。

(でも、仕方ないよね……私だって女の子なんだもん。好きな男の子に、そんな姿……見せたくないよ)

――少女は少年のことが好きだった
いつから好きだったかはよくわからない。中学の頃からだったような気もするし、高校に入ってからだったような気もする。でも自覚したのはこの戦いを始めてからだ。

戦うのは嫌いだ。
怖い。痛い。……何より少女はそもそも他人と争うことを好まない性質だった。
もちろん大事なものを奪われた怒りはあった。だがそれだけで戦い続けられるほど、少女は強くなかった。

でもその側には少年がいた。戦う力はないけれど、たくさん助けてくれた。理解ある警察の人を見つけて、協力を取り付けてくれた。それが一介の高校生にとってどんなに大変だっただろうか。
でも少年はそんな姿を決して見せなかった。それどころか私が傷つくたび、やめようと言い出してくれた。自分が言い出せないことを察して言ってくれていたのだ。

お調子者で、ちょっとえっちで、情けないところも沢山知っている。
でも面倒見が良くて、何よりとっても優しい男の子だということを、私は知っている。
だから決めたのだ。

――彼を守ろう。彼の大事な世界を守ろう。

少年にも言わなかった、少女の決意。
そしてついに守り切れたのだ。グロンギはもういない。平和な世界が戻ってくる。
だから……

「……いいよ……これで……」
「何がいいんだよ! お前は……これから日本一……いや、世界一幸せにならなくちゃいけないんだ! だってそうだろ! 一番つらい思いをして! 一番痛い思いをしたんだから、報われなくちゃ……おかしいだろ! このままでいいわけないだろ!」
「ううん……私ね……今、幸せだよ……」

守れなかった命があった。
届かなかった想いがあった。
それでも本当に大切なものだけは守り切れたのだから。

……それに何より、好きな男の子に抱きしめられている。
こんなこと口にしたら、きっとバカだと言われるだろうけど、これ以上の幸せはあまり思いつかないから、きっとこれでいいのだ。

「ねぇ京ちゃん……お願いがあるの……」
「なん……だよ……」
「京ちゃん……ずっと生きて……おじいちゃんになるまで……死んじゃ……ダメだからね……」

私が唯一守れた、私の一番大切なもの。
だからずっと生きていて欲しい。
……これが私の希かな望み。たった一つの私の希望。

「何でだよ……何で……お前は……人のことばっかり……」

こんな時でも察しの悪い少年に思わず苦笑してしまう。
"他人"だからじゃなくて、"彼"だからなのに。
訂正しようかと思ったけれど、やめた。
そんなことをしたら彼はきっと背負ってしまうから。
自分で自分の気持ちを縛って、手に入るはずの幸せを見送ってしまうだろうから。
死ぬのは震えが止まらないほど怖いけど、それでもこの全身にある温もりだけで、私は満足してるから……。

だから、生きてね。

「……たくさん生きて……たくさん幸せになってね……それが私の……最後の……希…望だ…か…ら……」

その言葉を最後に少女の体から力が消える。
少年は力の抜けた体を何度も揺さぶり、その名を呼ぶ。だが少女が答えることはない。
やがてこの世の全てを呪うかのような、絶望の咆哮がこだまする。


だがその時、一つの異変が起きる。
少年の身体に黒いひび割れが現れたのだ。
だが異変はそれにとどまらない。
頭上に輝いていた太陽はいつの間にか黒く染まっていた。
この日時、起こるはずのない日食が起こっていたのだ。

だが悲しみの中の少年はそれに気づかない。
自身の異変にも、周囲の異変にも。
そして彼らを見つめる二つの瞳があることにも。

「――――――――ッッッッ!!」

喉が壊れるほどの絶叫を産声に、――彼は、"変身"する。


  *  *  *


これは一つの終わり。

一つの英雄譚の終わりにして、とある少女の恋の終わり。

だが、誰かが言っていた。

始まりと終わりはいつだって、同じコインの表と裏なのだと。


  *  *  *