2012年9月1日土曜日

第2回パロロワ名作劇場

あいも変わらず感想を垂れ流そう。
というわけで今回は珍しいロワをチョイス。


剣客ロワ第55話:ジゲンを穢す者

http://www15.atwiki.jp/kenkaku/pages/85.html


~ロワの雰囲気とマッチした表現~



さて、この話の何が好きかと言うと一つの地の文に集約される。

場面としては参加者、武田赤音が偶然物陰から見た老人の剣術を模倣する。
だがその剣術は門外不出の剣であり、太刀筋を盗まれたことを知った老人、東郷重位が逆にその素振りを目撃してしまう。
その老人が盗まれた剣術を評した一言である。

 それは異形の示現の庶子であった。

さらに文章はこう続く。

 それはあり得ぬ、あってはならぬ所から現れた。 
 そしてその庶子は、人の礼節を一切弁えぬ鬼子であった。 
 決して存在を許されぬ、おぞましき禁断の私生児であった。 
 ならば、その庶子はその親が責任を持ち間引かねばならぬ。 
 ならば、あの薩摩を冒涜せし異形の剣は滅ぼさねばならぬ。 
 薩摩の剣が盗まれた、その忌まわしい事実をも消すために。

この一連の文章が、たまらなく好きなのである。

まず単純に文章として美しい。
剣術を子に例え、"鬼子"、"禁断の私生児"、"間引く"といった子に関連する言葉を使うことで非常にまとまりの良い文章になっているのだ。「異形の示現の庶子」という比喩だけでもゾクリとくるのに、ここまで畳み掛けられると鳥肌が立ちっぱなしである。
また、これより前の文章で赤音の妖しい魅力を書くことで、盗まれた太刀筋=示現流を穢す鬼子という想像をしやすくしているのも見事である。

そしてこの比喩が特に秀逸だと感じるのは、これが剣客ロワならではの表現である、ということだ。
剣客ロワはwikiのタイトルや地図を見ても分かるとおり、非常に雰囲気を大事にしているロワである。コンセプトがコンセプトなだけに参加者も現代より過去の住人が圧倒的に多く、"鬼子"や"間引く"といった時代がかった言い回しがロワ全体から見てもしっくり来るのである。
同様の表現をしたとしても、現代が舞台の作品が多い他のロワではこうはいかないだろう。

またもう一つ、この一文が優れていると感じる点が、史実出展である東郷重位のキャラ立てに貢献しているということである。
剣客ロワの特色のひとつに、過去に実在した剣豪を多数登場させているという点が上げられるが……彼らは実質オリキャラみたいなものである。そして入り乱れる版権キャラクターに太刀打ちできるよう、様々な個性が持たされている。(その極まったものがルー語を操る坂本竜馬である。彼は彼で新しい坂本竜馬像を垣間見れるので必見)

その中で東郷重位の個性の一つとして"示現流に対するこだわり"があった。剣客ロワ参加者は剣客ゆえに大なり小なり自分の流派に対し"こだわり"があるのであるが、東郷重位のそれは"自国(=薩摩藩)の軍機機密"と同義であり、他の参加者と比べてもより強いものだった。

そこにこの話で盗まれた太刀筋を"異形の示現の庶子 "と表現したことで、その"こだわり"が"執念"や"狂気"に近いところにまで肉付けされたように感じた。
それは他のキャラにはない魅力であり、事実、次の話で東郷はある種の境地、または狂気に至ることになる。その話に至ったのもこの話があってこそだろう。


残念ながら現在はロワ自体が停滞してしまっているようだが、東郷の、そして赤音の活躍がまた見たいものである。

……ウーン、読み返してみたがやっぱ好きだわこの話。

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