2010年6月13日日曜日

世界樹ウッカリデス

俺に連続更新なんて無理やったんや!!(挨拶)
SS一本書くのにこのザマだよ!
というわけで世界樹SSである。世界樹出やる必要性皆無?
んな事俺が一番良くわかっとるわ!(涙)

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#1 ブシドー殿がまた死んでおられる

「む……」

目が覚めて、視界に入ってきたのは見知らぬ天井であった。はて、面妖な。確か俺は仲間とともに迷宮に挑み、そして……

「あ、シズマさん! 気がついたんですね!」

視界に天井以外のものが写る。明るい栗色の髪に可憐な花を思わせるかんばせ。縁あって同じギルドに所属することになったミニア殿である。そこで気づく。階下から聞こえるのは様々な人の騒ぎ声。鼻孔をくすぐるのは夕餉の香り。ふむ、ということは……

「……すまん、俺はまた迷惑をかけたようだ」

ここはおなじみの宿。詰まるところ、自分は迷宮内で力尽き、ここまで運ばれたという訳だ。

「え、いえいえ、大丈夫です! ――慣れてますから!」
「……ガハッ!」
「シズマさんが血を吐いた!?」

確かにこれでひぃふぅみぃ……両手の指に余るほど同じ経験をしている。わかってたこととはいえ、なかなかに凹む事実である。

「そ、そうか……慣れている、か……」
「え!? あ、そういう意味じゃなくてですね! えーと、あの、その、……シズマさんはそのぶん前線に立って戦ってくれてるってことじゃないですか! だから気にしないでください!」

フォローするために身を乗り出すミニア。不意に至近距離に入り込まれ、女性に不慣れなシズマはおもわず体をこわばらせる。だがミニアはそんなシズマの様子に気づく風もなく、興奮気味に言葉を続ける。

「そうです! 私たちは何度もその刀に助けられたんですから! それに、こんな時のために私みたいなメディックがいるんですからドンドン頼ってください!」

そう言って胸を叩くミニア。その態度には嘘や誤魔化しではなく、心底そう思っているのだ、という様子が見て取れる。

「ミニア殿、かたじけない……」

純粋な心遣いが倒れ伏した身にしみる。思わず頭を垂れ、しかしその返答を聞いたミニアは頬を膨らませた。

「……シズマさん、殿付けはやめてくださいって何度も言ってるじゃないですか」

ミニアは敬称を使われるのを嫌う。おそらくそれは彼女の生まれに由来するのだろう、とシズマは思う。
とはいえ直接聞いたわけではないので詳しいことは知る由もない。だが、いくつかの事実がそれを物語っている。

まず、ギルドリーダーのシャルことシャルロッテとは"姉妹"と名乗っていたが、シャルからミニアに対する接し方は非常に不慣れで、ぎこちない。どう見ても親兄弟に対するものではない。宮勤めの経験のあるシズマはよくわかる。あれは間違いなく主君と主従の関係であると。それを証明するかのようにミニアは格好こそ普通の薬剤師(メディック)だが、その服の生地はなかなかの上物である。そして何よりミニアの立ち振る舞いには花がある。

……以上の点からおそらくは止ん事無い身分の女性なのだと想像できる。故郷で「性分がなまくら並」とまで言われた自分ですら気づいているのだ。世間慣れした斥候(レンジャー)のロバートや、人を食ったよう態度を好む錬金術師(アルケミスト)のグリードなど一見で気づいたであろう。つまり知らぬは本人たちばかりなり、ということだ。とはいえ、本人たちが隠しているつもりならわざわざ指摘する必要も無い、というのが自分の方針だが。

「? どうかしましたか?」

ついつい長く見てしまっていたらしい。首を傾げるミニアに『いや、なんでも』とだけ返し、視線を再び天井に返す。

「それでも心配しました。 そうです! シズマさんもシャルみたいに鎧を着ればいいのでは……」「いや、そういう訳にはいかぬのさ。 このカタナという代物を生かすには……な」

鎧は便利だが、刀の最大効果を出すためには邪魔でしかない代物だ。最適な体捌きを阻害し、最大の武器である初速を殺してしまう。そうなれば後に残るのは中途半端な一撃のみ。命を惜しんだ結果、自分だけでなく仲間も失うことになる。それだけは、何があろうと許されない結果だ。しかしそれでもなおミニアは納得がいかないという顔をしている。

「……でもこんな無茶を続けていたら、いつか取り返しのつかない大けがをしちゃいますよ!」
「何、俺の故郷には”憂きことのなほこの上に積もれかし。限りある身の力試さん”という言葉がある。 ……試練があればあるほど、俺は燃える人間でね それにブシドーは死ぬことと見つけたりという言葉もある」

そう、試練がなければ強くはなれない。それも死と隣あわせの試練でなければ、己の力を極限まで引き出せない。そのためだけに俺は海を渡り、この国までたどり着いたのだ。自分の体を動かす焼け付くような想いは今こうしている瞬間も自分の中で燻っている。

「……やっぱりシズマさんはすごいです。 でも、ちょっとそれは悲しい考えだと思うんです。 私は……シズマさんがもし帰ってこなかったら泣くと思います。 出会ってたったの一週間ですけど、それでも仲間なんです。 ……だからもうちょっと自分を大切にしてください」

自分に向けられたまっすぐな想い。何のてらいもなくそれをぶつけられ、思わず視線を逸らしてしまう。頬が熱い。正直、何だかとても照れくさい。

「む、聞いてますか? こっちを向いてください、シズマさん!」

無茶を言わないで欲しい。今の自分の表情に自信がないのだから。

「あ、ああ……わかった、わかったから! わかったからちょっと離れてくれ!」
「本当ですか?」
「……ああ、本当だ」
「はい、じゃあ指切りです!」

そう言って手を取り、小指を絡ませる。自分のごつごつした指とは違う小さく、細い指。だがそれから後のやり方を知らないのか、そのまま「えへへ」と照れくさそうに笑う。一方でシズマは小指から伝わる温もりに、体を堅くしていた。

「……! …………!!」

だがその時、階下からの声に変化が現れた。大声の中に怒鳴り声が混じっている。この声は……シャルか。ということは十中八九相手はグリードであろう、と当たりをつける。真面目なシャルと道化じみた振る舞いのグリードの相性は傍目にも最悪だとわかる。

……まぁ、それも致し方あるまい。シャルにしてみれば自分を殺しかけた相手と仲良くなれ、と言われているのだから。むしろ同じ境遇でありながら、すぐさま笑顔でつき合えるミニアが、どちらかといえばおかしいのだ。だが、そんなミニアであるから、人を引きつける何かがあるのだろう。シズマは一息つくと、不器用な笑みを浮かべる。

「……俺の方はもう大丈夫だ。 ロバート一人ではシャル殿を押さえるのは至難の業。 それにそのお役目はミニアど……ミニアの役目だろう」

呼び捨てにされたことに機嫌をよくしたのか、ミニアは太陽のような笑顔を浮かべ、

「はい! じゃあ行ってきますね!」

そしてそのままドタドタと階下へと駆けていき、部屋にはシズマ一人だけが残される。さて、傷を早く治してまた、あいつらとダンジョンへ潜ろう。そのためには――

「……寝るか」

シズマはそうつぶやき、再び布団に身を沈めた。

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